先日、国会で公立学校の教員の働き方改革で、長時間労働を是正するために「1年単位の変形労働時間制」を実施することが出来る法律が可決されたことがニュースになりました。
そこで「1年単位の変形労働時間制」ってそもそも何?と思っている方のために解説をいたします。
変形労働時間制
労働基準法では、労働時間は1日8時間、1週間で40時間までと決められています。(これを法定労働時間と言います)
ただ、様々な業種や業態があるなかで、全ての企業をこの枠に収めようとすると無理があります。
例えば、スーパーではシフト制にしていて、特売日は10時間勤務、別の日は6時間勤務にするといったことをしていて労働時間を調整しています。
このように、一定の期間を平均して1週間の労働時間が40時間を超えなければ、特定の日や特定の週については法定労働時間を超えて働くことが出来るという制度が変形労働時間制になります。
変形労働時間制には、1か月単位の変形労働時間制、1年単位の変形労働時間制、1週間単位の非定型変形労働時間制、フレックスタイムの4種類があります。
これだけ聞くととても良い制度だから取り入れたいと思う企業もみえるかもしれませんが、変形労働時間制は労働者に不利益を与えることもあるので、その制度を導入するには、会社と従業員の代表者が協定を結ぶ必要があるなど手続は簡単ではありません。
1年単位の変形労働時間制とは
対象期間(1か月を超え1年以内の期間)を平均して、1週間の労働時間が40時間を超えないようにするのを1年単位の変形労働時間制と言います。
1年単位と言ってますが、その期間は1か月を超えて1年までなら企業の実情に合わせて、都合の良い期間を選ぶことができます。3か月を対象期間にするような企業が多いと思われます。
この制度を導入している代表的な業種が百貨店です。百貨店は、お中元やお歳暮、クリスマス、年末年始、クリアランスセール期間などは繁忙期になりますが、2、8月など閑散期もあります。また、ゴールデンウィークや、お盆、お正月に休めない代わりに、他の時期に
まとめて休みを取ったりします。このように1年のうちで繁閑がはっきりしていて、しかもそれが毎年ほぼ変わらないような企業には向いています。
労働時間の上限は
1年単位の変形労働時間制を採用した場合の労働時間の上限は、1日10時間、1週間で52時間になります。
※対象期間が3か月を超える場合は制限があります
また、対象期間が3か月を超える場合は、労働日数の上限は1年当たり280日になります。
(1週間に1日、もしくは4週間で4日といった法定休日よりも多く休ませる必要があります)
1年単位の変形労働時間制の特徴としては、特定期間というものがあることです。
特定期間とは、特に業務が忙しい時期として定めた期間です。通常、対象期間において連続して労働させることが出来る日数は6日なのに対し、特定期間中は12日まで連続して働かせることができます。
なお、特定期間は設けなくても構いませんし、複数回(例えば6月と9月が特定期間)にすることも可能です。
なお、対象期間中に法定労働時間の総枠を超えた場合は、対象期間が終了した後にまとめて残業代を支払うことができます。
労使協定を結ぶこと
1年単位の変形労働時間制を採用するには、労働組合もしくは従業員の過半数を代表する者と労使協定を定める必要があります。なおかつ、協定を労基署に提出しなければなりません。
労使協定で定める事項は下記のとおりになります。
①対象労働者の範囲
②対象期間
③特定期間
④対象期間における労働日及び労働日ごとの労働時間
⑤労使協定の有効期間
学校の教員は、夏休み中はあまり忙しくないのでその間にまとめて休んだり、1日の働く時間を短くしたりして、その分忙しい時期の1日の労働時間を長く出来るようにするという主旨で1年単位の変形労働時間制を導入しようとしています。しかし、「夏休みであっても仕事は多く部活もある」、「長時間労働をますます助長する」など反対する意見も出ています。
前述しましたように、1年単位の変形労働時間制は1週間52時間勤務や12日連続出勤が可能であり、かつ変形期間が最長で1年間と長く上手に運用すれば残業代の削減にもなります。しかしその分労働者にかかる負担がとても大きくなります。その為労使協定の届出が義務付けられています。一般企業でも導入する際は慎重に行う必要があります。